大堂海岸フリークライミング

日程 2007/11/23(金)〜26(月)
山域 高知:大堂海岸の岩場
ジャンル フリー
メンバー Suga、他

記録

ゆうべはカーラジオからクリスマスソングも流れてたっていうのに…。いま、南国の太陽に背中を焼かれて、汗だくになりながら岩塔のてっぺんに這いあがろうとしている。背中ごしに群青色の黒潮に光るさざなみ。荒くなった息が収まるにつれて、潮騒が耳に入ってくる。象牙のように白い花崗岩が、城砦のように海岸線を取り囲んでどこまでも続き、青い空には悠々とトンビが弧を描いている。たったいまオンサイトに失敗したくやしさも、潮風にさらさらと溶け出していく。

ああ、とうとう、楽園にたどり着いてしまったのだろうか? ここは南国土佐、大堂海岸。

名古屋から700キロ、9時間のドライブ。ややふらつく足取りで車道からウバメガシの樹林を下ると、目の前にぱあっと広がる太平洋。となりのIHさんが「帰ってきたなあ」としみじみつぶやくと、なぜだかこっちまでそんな気になってくるのが不思議だ。

今回の旅の仲間は、錫杖岳の開拓などで活躍中の気鋭のチーム、「Right&Fast」のIHさんと、同じくブログマニアのカジタニ。そこへ「軽薄で拙速」を代表するオレが無理をいって混ぜてもらったのだ。

目指す岩場へは、ゴロタを登ったり降りたり、巨大迷路のようで楽しい。潮溜まりでは小魚どもが僕らに驚いてパニックになり、ウニやカメノテはまるで動ぜず大人の対応。さっそく手始めに「モンキーエリア」へ。

30mはあろうかという岩のスケールと、そこに無数に走る割れ目に、文字通りモンキーと化す一行。ほぼ徹夜の疲れも忘れてテーピングを巻き始める。すっきりと一直線に空へと伸びる「スーパークラック」(5.9)から。

快適なハンドクラックが青い空に向かってどこまでも続く。レストポイントで振り返れば海。こんな夢をいつか見たことがあるような。

こちらは「モンキーハング」(5.10a)。パワフルな拳のジャミングでオーバーハングを越えていく。小さく叫び声をあげれば、トンビがふわりと頭上から飛び立ち、ちまちまと高度を稼ぐ人間どもを小バカにする。

「ビッグウェーブ」(5.10b/c)。フレークの中は広がっていて、カムのボトミングを多用する。岩は真っ白なのでスベスベかと思いきや、鮫肌のワサビオロシのようにざらざらしている。決して高価なクライミングウェアなど着てきてはならない。作業着とかが適切。

さて、満月が昇るころどこからともなく怪しげな人々が集まってきて、あれよあれよという間に七輪に火が熾り、ビールがケースごと並べられる。岩場を開拓した方々が、年に一度集まって宴会を開くところらしい。そしていつの間にかその真ん中に居座って七輪奉行と化している私がいた。

写真で見るとホームレスの集まりみたいだ。食べきれないほどの刺身と、社会復帰が危ぶまれるほどのニンニク。炭火で程よくあぶったジャコ天。ナベに無造作にぶち込まれた取れたての魚たちを、忙しくビールと芋焼酎のちゃんぽんで流し込む。

中年男性から学生までいる得体の知れない集団は、道楽者の見本市のようで、こちらで釣り道具の自慢話をしているかと思えば、凶悪な望遠レンズを取り出す野鳥ファンもいる。屋根の上にカヤックをくくりつけた車も到着する。本当にクライマーの集まりなのだろうかと「師匠」の太鼓腹を疑いのマナザシで眺めやるのだが。

二日酔いの呑んだくれにも平等に訪れる荘厳な朝。今日めざすは満潮になると渡れないという、その名も「帰らずエリア」である。道を間違えて雲の巣だらけになりながらやぶこぎし、海岸線を岩伝いにトラバース。

くだんのジャンピングスポット。折悪しく大潮で、釣りのおじさんも心配顔で「大丈夫か?」と声をかけてくれる。

とりあえず「熱風セレナーデ」(5.10a)へ。まっすぐに天を衝く30mのクラックで、上部にはオーバーハングが覆いかぶさる。慣れないスケールで見誤り、近づくにつれハンドサイズと見ていたあたりはオフウィドゥスだとわかってももう遅い。開き気味にセットしたカムにビビリ、息を荒げながらキャメロット#4を置いてきたことを後悔する。

さらには懸垂したロープがスタックしてユマールで登り返す羽目に。いろいろなことが起きて楽しすぎる。

次第に高まる波音にビビリながらユマーリング(ビビッてばっかりいる)。やっとロープを回収し、ヒット&アウェイで今度は安心な「お座敷エリア」へ。

短いが楽しい「Hクラック」(5.11−)。登っているのは福岡のナントカさん。春に小川山の親指岩でお会いしていたらしいがまるで覚えてなかった。すまぬ。

どの岩もまるで前衛彫刻のようで美しい。見ているだけでも飽きない(登らない言い訳にもなる)。

そして今夜も宴会は続く。身体の成分がかなり魚タンパクで占められてきた。気がつくとオレが中心に座っているのはどういう陰謀だろう。クライマーの遺伝子同士が引きつけあうのだろうか、昨日知り合ったばかりの人たちとは思えないほど(俺が図々しいだけという説も)。

今日はクライミングをやめて洞窟探検。ではない。

初リードで苦労しているA大の学生くん。カムが足りずに震えているところ。

意外に大ヒット、馬路村名物(?)スーパーごっくん。ふつうのスポーツドリンクのようなケミカルな味がしないのでうまい。

三日目。今日も登らなくちゃいけないなんて…シアワセ。ハーバーエリアの美しい三ツ星ルート、「アップダウンクイズ」(5.10c)へ。コーナーのシンハンドから、ややうすかぶりへと傾斜を増してゆく一直線のクラック。IHさんは「終了点はどうなってるかわからないよ」などと挑戦的な言葉をかけてくる。

オンサイト狙いの人は少し読み飛ばそう。今回はマジで。

取り付きは谷底のようなチムニーをまたいで取り付く。いきなり甘めのシンハンドからスタート。うまくジャムが決まらないので、レイバックで強引に突き進むが、夕べの刺身丼が胃にもたれているせいかなかなかしんどい。やがて左壁はスラブとなってクラックから離れていってしまう。ステミングの体制でレストに入るが、左足スメア、右足はジャミング、左手カチアンダーに右手シンハンドという厳しい体制で力が抜けず、休めない。突っ込もうかとちらりと考えるが、右手のシンハンドの決まりは極アマでとても引き付けられない。しばらくジタバタした挙句、スラブを這い上がってテラスに座り込んで休んでしまう。少々インチキくさいが史上最高のレストポイントである。

ふと見下ろせばカヤックのYさんたちがゆうゆうと漕ぎながらこちらを見上げている。少しは手がねじ込めるだろうと、汗ではがれかけたテーピングをむしりとる。シンハンドから二手ほど上にチョックストーンがあり、そこまで行けば何とかなりそうだ。あれが動かないことを祈るしかない。

ちょっと怖いクライムダウンから、さっきのジタバタポイントまで戻る。右手に外れないように言い聞かせ、左手を逆手にしてねじ込むが、これも甘い。左足のつま先をジャミングするが、右手が離せない。意を決して左手をデッド気味にチョックストーン下のハンドサイズに放り込む。一瞬止まった、と思ったが…あえなく両手ともクラックから吐き出され、見事オンサイトを逃してしまう。チキショー。

しかたなく上まで抜ける。チョックストーンから上は特に問題がなく、サムカムを二手ほどで外傾したテラスに這い上がる。終了点はやはり無く、小サイズのカムやオポジションナッツを使ってビレイ点を構築、「クレイジージャムより難しいよ〜」とかなんとか泣き言を言いながら登ってくる、フォローのカジタニを引き上げる。

取り付きに戻るにはさらに2ピッチくらいロープを出して回り込まないと戻れない。いや〜楽しい。

あまりにくやしくて翌日も行ったのだが、疲れが出てきたのか結局登れず。うまいこと宿題を残して海岸を後にする。

駐車場への道すがら後ろを振り返りながら、ゆうべ酔っ払って自分で言った冗談を思い出す。「僕はここで登るために、クライミングを始めたような気がしています」。調子のいいことを言うなあなんて笑われたが、あながちウソでもないような気がしてきた。

また来年も来よう。ここへ帰ってこよう。今回は触ることもできなかった、看板ルートに取り付けるくらいの力をつけて。いや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。釣りに行ったり、カヤックに乗せてもらうのもいいな。そうだ、ここは楽園なんだから。

Writen by Suga

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