錫杖岳

日程 2006/9/23(土) 〜 2006/9/24(日) 
山域 北アルプス:錫杖岳
ジャンル アルパイン
メンバー M.Su、T.J
コース 2006/9/23(土) 注文の多い料理店
2006/9/24(日) 見張り塔からずっと

記録

第1日 烏帽子岩北沢フェイス「注文の多い料理店」5.9

「どなたもどうかお入りください。なんにも遠慮はいりません」

「注文の多い料理店」。この夏、ビレイ点を除く残地ピンがすべて撤去されたという情報に、胸をときめかせたり胃がもたれたりしながら行ってきた。 早朝、鑓見の駐車場につくと車でいっぱい。う〜ん凄まじい。明日のテント場の心配をしながら仮眠。起きると7時を回っている。なんてこった、超がつく寝坊だ。もうテントはあきらめて駐車場をベースにする。なんたって混浴露天風呂だってあるし。

クリヤ沢沿いの登山道を軽装で快適に飛ばして錫杖沢出合、そして青空にそびえたつ烏帽子岩前衛壁へ。いつ見てもかっこいいな〜。もうコールの声があちこちから聞こえてくる。大盛況だな、こりゃ。そういやロクスノに錫杖の特集載ってたし。大渋滞の心配をしながら北沢の取り付きへ。/

ところがどっこい、「注文の…」の取り付きには誰もいない。明日登る予定の「見張り塔からずっと」に2パーティー、「しあわせ未満」にフリーでトライしている篤志家のパーティー(ロクスノに出てたY氏らしい)しかいない。準備しているとカップルが一組来ただけだ。マルチピッチのクラックでデートですか。彼女のほうは少し迷惑そうなのは気のせい?

1ピッチ目、砂の乗ったホールドが少しばかりいやらしいIV級のフェイスを快適にバンドテラスまで。少なめプロテクションでSugaがちゃきちゃき登る。2ピッチ目、傾斜のある凹角の出だしにちょっと戸惑うもいつもの相方タコ坊主Jがちゃきちゃき登る。枯れ木テラスへの微妙なマントルは手が切れそうなガバホールドがあって楽しい(?)。

いよいよ核心(5.9)の3ピッチ目。『チャレンジ!アルパインクライミング』と同じ構図で写真を撮ることを目的に登っている(?)相方は、当然のように僕にリードを押し付けてくる。余分な荷物(カメラ)まで持たせて、投げやりなビレイで快適なテラスから追い出されるのだった。

いきなりのハング=クラック。フィストジャムを頭上に決めてのっこすが、体のきりかえしがちっと苦しい。ハングの上はクラックが広がり、もうジャムは決めれない。ジャミング一手だけかよ!と心の中でかるく突っ込んでおく。ま〜たえんえんとレイバックか〜。とはいえスタンスが豊富にあり、快適そのもの。あっという間にビレイ点らしきボルトに到達。ロープのメーターを聴くと半分も出てない。そのままもうひとつのハングものっこしてやれ。

のっこして後悔する。しまった。まだオフハンドが続いてる。#4のキャメは使ってしまってもう、ない。ビレイ点にも、もう、戻れない。またやっちまった。10mほどのランナウトに覚悟を決めて踏み込む。とはいえ傾斜もなく、軽い緊張感でハング下に到着、やっと小さいカムをきめてビレイ点。2ピッチつなげて登ってしまったので念願の写真は取れず。相方が不服そうに上がってきた。(写真参照)

ここまで来ると左方カンテの喧騒が間近に聞こえてくる。相方がちゃきちゃきリードする。細めのクラックだがこれまたスタンスが豊富で、順調にロープを伸ばすがビレイ点が混雑しているらしく、ちょっと長い待ち時間。セルフビレイを伸ばしてテラスに寝転んで待つ。30分ほどもしてやっとコール。よっこらしょと体を起こして、シンハンドのクラックを登っていくと後ろのテラスに左方カンテのパーティーがたむろしていて格好の見世物になってしまう。「ねえ見て見て、あれ難しいルートでしょ!」「すごいねえ」なんて言ってるし。ムフフ。も っと言いなさい言いなさい。しゃべっているのがヤングなギャルなら言うことないが、そんなことは絶対にないので振り向いて笑顔を返すのはやめておいた。

終了点につくと3パーティーくらいがビレイ点に群がっている。左方カンテから来た人が一段下でじっと待ってる。おいおい、なんて人口密度だよ。なんでこんな山の中で見知らぬおっさんと密着しなくちゃなんないんだ?まあ時間もあるしP2の頭まで抜けることにする。V級くらいのフェイスだけど、岩がボロボロ。みんなよくこんなとこ登ってんな〜。フレークなんてポコポコ音がするし。さすがにここでは残置ボルトを使う。ザレたルンゼ状とかを越えてP2の頭(を見上げる広場?)に立つ。槍穂が一望。錫杖の本峰、明日登る大洞穴もよく見え る。

飲み物も置いてきてしまったのでさすがにのどが渇いた。10人くらいで来てた泉州山岳会のお美しいセレブなマダムのみなさまに図々しく水を恵んでもらう。きっとゴルゴダの丘に引き立てられるイエスに水を飲ませたという女性の末裔にちがいない。チョコバーまでもらってしまった。きっと苦行に苦しむ釈迦に乳を与えたという…これくらいにしておくか。

まだまだ登ってくる左方カンテからの渋滞を掻き分けるようにして下降。北沢側を3ピッチくらいで取り付きに降り立つ。ポカリを飲み干し、みかんゼリーをかきこんで人心地ついたあと下山。途中に荷物を残置。空身で駆け下る。槍見橋まで来るとなんと露天風呂に若い女性が入っているではないか!しかも5人も!

相方のタコはすっかり鼻息を荒くして、「メシの前に温泉はいりましょう!温泉!」と魂胆は見え見えだ。しかたがないな〜とか言いながら早足で車に温泉セットを取りに行き、取って返して温泉にアタック。今日一番の核心部に突入する。入ってみるとギャルは二人に減っていた。しかもバスタオルでガッチリガードしている。 いまどきの若い人は温泉に入るときのマナーも知らんのか…などと年寄りくさく愚痴るが、相方はまんざらでもなさそうで、「見えそうで見えないのもいいんですよね〜」なんてホクホクしながら、怪しまれるのも気にせずガン見している。リードのときにもそのクソ度胸を発揮してくれよな…。

第2日 錫杖岳本峰フェイス「見張り等からずっと」5.8

There must be some way out of here," said the joker to the thief,
There's too much confusion, I can't get no relief.
道化が泥棒に向かってこう言った。『何とか抜け出す方法があるはずだ』と。
俺の頭はますますおかしくなってきた。だれか助けてくれ…

さて、せっかくここまできたんで、オールフリーのもう一本、「見張り塔からずっと」。朝もやの中再び軽装で取り付きへ。やっぱり誰もいない。浮石があちこちに乗った傾斜のゆるいスラブを駆け登る。とはいかず、這い登る。残置ボルトはあるけどそのラインは濡れてて使えない。適当に上れそうなところを登る。トポにもそう書いてあるし。時々はビレイ点もろくなものがなくてピトンで作ったりしながら、4ピッチくらいかな、緩傾斜の中央稜に到着。落っこちてるATCがあったらきっと僕のです。ごみを増やしてすみません。 背丈くらいの笹薮をこいで洞穴ハング下についてみると、ペットボトルとか、ストックとかフリースの上着とかが残置してある。誰か住んでたんだろうか。夜になると帰ってくるのかな。

というわけで洞穴ハング。ハングしてるねぇ〜。しかも節理が複雑でなんだかもろそう。でもまあ何とかなりそうだ。一応順番どおり相方がリードを試みるが地上3メートルで動きが止まる。またこのパターン?あきらめて降りてきた。たしかにカムの効きはいまひとつな感じで、ビビリがはいるのも無理はない。仕方なく、とりあえずザックをおいて空身でリード。ホールドは縦向きが多くて少々テクニカル。花崗岩でキョンを決めるという貴重な体験をしつつハングの上に。スリングのかけられそうなピナクルがあるが実はこれがまるごと動く。とりあ えずザックを引き上げて上部の左上するクラックへ。バチ聞きのハンドジャムに豊富なスタンス。快適に草つきテラスにのっこす。

So let us not talk falsely now, the hour is getting late
くだらないおしゃべりはやめようぜ。ずいぶん遅くなっちまった。

テラスからはもっともろそうなコーナーが10メートルほど続き、見張り塔ハングがかぶさっている。まあランナウトという情報もあるのでここはひとつわたくしめが。コーナーはやはり複雑な節理ですっきりしたクラックじゃない。しかもさらにもろそう。まあジャミングとフェイスのぼりの混ぜ混ぜでコーナーを詰め、右のフェイスに出て行く。だんだんガスが出てきて評判の高度感もいまいちといったところ。まあ垂直はないが#6くらいのナッツでのランナウトは緊張する。だだっ広い草つきスラブに飛び出すがビレイ点がない。あちこちうろうろし てリスやら探した挙句、小さな岩にスリングをまわしてビレイする。丸っこくてちょっと怖い。

All along the watchtower, princes kept the view
While all the women came and went, barefoot servants, too.
見張り塔からずっと、王子様と裸足の召使いは
女たちがみんな、どこかへ逃げ出すのを眺めてたんだ…。

草つきスラブから濡れていやらしいV級くらいのルンゼをつめて最後のクラック。見るからに快適そう、本峰山頂にとびだすロケーション。譲ってもいいがここはお決まりのじゃんけんタイムだ。辛くも勝利、かつて少年時代「じゃんけんキング」と呼ばれた相方だが、いまはその髪の毛同様見る影もない。

見た目のとおりの快適なジグザグクラックを登ると、本峰山頂、トキントキンの先っちょに飛び出す。ガスの晴れ間に烏帽子岩や稜線上のピナクルが見え隠れする。前衛壁の喧騒もここには関係ない。吹き付ける風がちょうどよく、気持ちいい。

さて、次はどこへ行こうか。いや、そんなことは考えずに、もうすこし風に吹かれているのもいいだろう…。

以上

注文の多い料理店 1P目

注文の多い料理店 2P目

注文の多い料理店 3P目

見張り塔からずっと 1P目

見張り塔からずっと ?P目5.8のクラック

見張り塔からずっと 最終P

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